カオルが高熱を出して寝込んでいる間、奈都は勉強も手につかない様子で集中力を欠いていた。

受験生の奈都に熱を移すわけもいかないので、カオルはひとまず病院に連れて行った後、聡さんの家で面倒を見ることになった。

でもそれは建前で、今までにないくらいの痛々しい傷や痣だらけのカオルを奈都に会わせるのは酷だと考え、もう少し傷が治るまで奈都と距離を置かせることにした。


「大丈夫だよ、すぐ元気になって戻って来るから」

「うん」


奈都は心配と寂しさでいつものような元気は無かった。

その代わり、私が今までにないくらい明るく振る舞った。

まだ目を覚まさないカオルの状況はAgainのメンバー全員に知れ渡り、心配の声が日を跨ぐごとに大きくなった。

カオルが目を覚まないまま、三日が経とうとしている頃、私はお姉ちゃんに会いに聡さんの家へと訪れる。


「カオルの様子見に来たの?」


お姉ちゃんは可愛らしいマグカップに紅茶を注いでくれた。

私はほのかに香る桃の匂いに、緊張していた心が少しだけ落ち着いた気がした。