Again〜今夜、暗闇の底からお前を攫う〜

「何やってるんだ!離せ!」


聡さんが無理矢理カオルを引き剥がす。

カオルに胸ぐらを掴まれていた男は、恐怖で尻もちを付き、口が小刻みに震えていた。

圧倒的な力を前にして、勝てないと分かったとき、こんな風に逃げる力も出ないのだと哀れに思えた。

それと同時に、今血を流して立っているカオルのことを悪魔か、バケモノかそういう類いの得体の知れないものに見えた。


「内輪揉めは許さないとあれほど言っただろ」


カオルは聡さんの声が耳に入らないのか、長い前髪の隙間から見える目が明らかに据わっていた。


「カオル!聞いてんのか!?」


こんなにも聡さんが怒ったところを見るのは初めてで、私は恐怖で一歩後ずさる。

それと同時に、カオルの目線が動いて私のほうを見た、気がした。

────誰?

素直にそう思った。

カオルは我に返ったように天を仰ぐと、長い前髪を血で染まった手でかきあげた。

そして、酷く怯えたみんなの顔、割られた窓ガラス、血が出ている自分の手を見て、小さく息を吐いた。


「おい、どこ行く気だ」

「…頭冷やしてくる」

「待て、話は終わってねぇぞ!カオル!」

「話すことなんて今更なんもねぇだろ」


カオルはそう吐き捨てると、血を床に垂らしながら溜まり場から消えていった。

カオルが残していったのは、割れた窓ガラスの破片と、カオルの血と、最悪な空気だった。

私はこの日、初めてカオルの痛みに触れた気がした。