身代わり少女は主人を慕う

「いいんです、将吾様。私が悪いですから。」

私は、震える体を押さえながら、自分にも言い聞かせた。

「もう、将吾様にも近づきません。」

「分かればいいんです。なら、あなたは先に、部屋に戻りなさい。」

「はい。」

私は、なんとか立ち上がった。

「うたさん!」

「そのうたさんと言うのも、お止めなさい。この方は、今は音羽なのですから。」

私はゆっくりと、目を閉じた。

そうだ。

私は、今”うた”じゃない。

この久保利の家のお嬢様、”音羽”なんだ。


だから、将吾様はお兄様。

好きになっては、いけない人なんだ。


私は、背中で将吾様の視線を受けながら、応接室の扉を開いた。

楽しかった、あの時間ともさようなら。

涙が零れたけれど、そのままで応接室を出た。