「さて、行きましょうか。」

「えっ?」

「湯殿ですよ。先ほど、昇吾様が風呂に入れと、仰ったでしょう。」

自分無しで話が済んでいる事に、亮成さんは怒っているのか、一向にこちらを向いてくれない。

私は、湯殿の準備をして、人に見られないように、亮成さんの後を付いて行った。


「どうして、庭などに?」

廊下を歩いている時に、ふいに聞かれた。

「あ、あの……綺麗な花が咲いていたので。」

「嘘だ。本当は逃げ出したのでしょう?」

驚いて、体がビクッとなった。

亮成さん、鋭い。

「そんな時は、私に何でも相談なさい。」

「亮成さん?」

その時、亮成さんが後ろを振り返った。

「あなたの味方は、将吾様だけではないのですよ。」

私の顔は、自然に綻んでいった。