Evil Revenger 復讐の女魔導士 ─兄妹はすれ違い、憎み合い、やがて殺し合う─

 兄からそんな言葉が飛び出し、私は少し驚いた。
 この期に及んで、この人は何を言っているのだろう?
 今更どう言い訳したところで、私の過去に味わった痛みは、苦しみは、消えないのだ。

「それでも向かってくるなら、容赦なく殺すぞ」

 私の目を睨みながら兄が続けたのは、そんな言葉だった。
 謝罪の言葉など、ありはしなかった。
 私も元から、そんな言葉は期待してはいなかったが。
 そもそも、兄はさっき"理屈はわかる"と言ったのだ。
 "気持ちはわかる"とは決して言っていない。
 私が味わった地獄など所詮、この人にはどうでもいいことなのだろう。
 いや、それでいい。
 だからこそ、私は何の罪悪感もなく、あなたに剣を向けられる。
 剣を構えなおす。
 次は2人同時に、私と兄は地を蹴った。刃と刃が再びぶつかり合う。
 何合も何合も、私達は剣をぶつけ合い、火花を散らした。
 兄の剣は何度か、赤い剣をすり抜けて私の体を捉えそうになったが、その度にネモの制御する赤い盾が、的確にそれを阻んだ。
 私の赤い剣も、何度か兄を捉えそうになるが、惜しいところで回避される。
 ……凄い!
 私は興奮していた。
 予想を遥かに上回る、兄の強さに。
 あの兵団長ローラントなど、問題にならない強さ。
 これだけ打ち込んでも、掠りもしない反応速度。
 魔の谷での戦いの時は、私は何十人もの相手を同時にしながら、殆ど反撃をもらわずに立ち回ることができた。
 だが、これは1対1の戦いなのに、あの時以上の恐ろしさがあった。3枚の盾がなかったら私はとっくに死んでいる。
 これがベスフルで"英雄ヴィレント"と呼ばれた、兄の強さなのだろう。
 互角の条件で戦っていれば、多分、私に勝ち目はない。
 だが、それでもいい。私の目的は、兄の強さを超えることなどではないからだ。
 そして、決してまったく届かない強さではない。剣を交えながら、私はそう感じていた。
 今は、ネモと2人でこの人を倒す。
 ただそれだけを考えて、ひたすら全力で剣を振るった。
 兄の何度目かの反撃。
 私の剣と剣の間を縫うようにして、強烈なカウンターの突きが私に襲い掛かった。

「ひっ!?」

 あまりの勢いとスピードに、思わず声が漏れる。それは正確に、私の首元を狙って繰り出されていた。