その日の帰り道はあまり記憶になかった。
酒が回っているわけでなく、ただキャパオーバーというか考えるにはいささか、私の頭の処理が死んでいたからだと思う。しっかり家まで送ってもらって、私の家の前で彼はおでこにキスをした。
「日曜日、駅で待っているから。おやすみ」
ただのキスでないことは、そのおやすみに込められた熱と唇の熱がリンクしていたからだと思う。焼けるようにおでこが熱い。何を考えているかわからない彼の後ろ姿はいつも通り小さくなっていた。乱雑に、パンプスを脱ぎ捨てると急激に頭が冷えていくのがわかった。散らばった疑念とともに、ベットにまとめて飛び込んだ。
まだ籍をいれていないとはいえ、私は不倫相手になるのだろうか。
未来の奥様が、夫のことで牽制するんだろうか。
でも、会うなと言われれば会わない。私自ら連絡することはない。
キスを残していった彼の性格を分かっているなら、たしかに不安になるだろうけど。
あの紹介は能天気すぎはしないだろうか。もしかして公認の不倫相手?
私はどんな気持ちで会えばいい?
会うこともせず、彼と金輪際関わらなければこんなこと考えなくてもすむのだろうな。

