思ったよりも心がすり減る話だった。陽は傾き始めていた、話の途中からりんちゃんが寝ていたのは都合がよかった。言葉はわからないだろうけど、雰囲気で感じ取ってしまうだろうから。佐藤さんの太ももを枕にして、無防備に眠っている姿を見るといたたまれなさを感じてしまった。佐藤さんを送ったあと、二人で歩いていた。その間は話すことができなかった。聞きたいことは色々あるにしてもまとまらない。口火を切ったのは彼だった。
「今日は悪かった、来てくれてありがとう。…もうちょっと話さないか」
「うん」
「俺の部屋でいいか」
急に身体がこわばった。明日、結婚する男の家に行く。この男はことの重大さをわかっていない。世間一般的に結婚という契約を。少々早口で「なんで?」と言った。そして立ち止まる。怯えたようにこちらを向いた、そしてなだめるようにいう。
「知ってほしいんだ、俺のこと。俺の考えを。世間ずれしていることはわかっている。今日、手を出さない」
「そんな当たり前のことを言わないでほしいんだけど」
「わかってる、でも、俺はこの話をすると泣いてしまう、と思う」
佐藤さんの前で泣いたのか、と悟った。
無性に腹が立ってきたが、縋るように見られて耐えれなかった。
六年もみてきた男はほんの一部だということに今更わかった。私に彼に恋の記憶はもうないが、現在の愛があり、情がある。見放すことはできない自分のなんと愚かなことだろうか。黙って歩き出せば、強く手を握られる。夕日に照らされて、いつか夜になる。こどもがきけない話をしよう。

