手をつけてなかったアイスコーヒーに手を伸ばす。からからと音を立てる氷は小さくなっていた。珈琲の味はしなかった。
私は彼のことがまったくわからなかった。どんな感情で、どういう思い出ここに呼んだのか。いつもだったら読めている表情は全く知らない人みたいだった。
逆に、佐藤さんのまっすぐな瞳はこちらに訴えかけているのがなにかわかる。澄んだその目に私はたじろんでしまう。
「…実際、私に会ってみてどうですか。感想というか、なんというか」
やっと出た、私の声は震えていたと思う。声がでていたかもわからないくらい小さな声。佐藤さんの表情は武装していた表情が崩れた。
「実際、会ってみてよかったと思いました。彼に色々話は聞いていて、その通りのかたで。ちゃんと戸惑いながらも接してくれているでしょう。私は死ぬ前だからか、人間を見る目は若かったあのころよりも見えているはずですから」
「…本当に余命通りに死ぬかどうか、わからないですよ。長生きするかもしれませんし」
「投薬をやめたんです。お金もかかるし、それなら残しておきたいから」
だからもって二か月なんです。
迷いのないまっすぐな目で、穏やかに話した。

