「私は、まだ本当の真陽くんと話したことはないよ。本当の君は、今よりもずっと人間味があって魅力的な男の子な気がするんだ」
桜十葉ちゃんはそう言って、ふわっと一輪の薔薇の大輪が咲くように微笑んだ。
桜十葉ちゃんは、どうしてこんなにも人たらしなのだろう。好きが溢れてしまって息が苦しくなる。ここまで他人に惹かれたのは、初めてだったんだ。
俺のものにしたい。俺で一色に染めたい。ずっと、隣に居たい。
決して結ばれることのない恋だと分かっていても、それでも俺は、好きという気持ちを止められない。
こんな気持ちを教えてくれたのは、君だったから。
誰かに感情を揺さぶられることも、何かに興味を持ったことも一度もなかったつまらない俺が、こんなにも本気になれたんだ。
まだ幼い時に、俺は他の人とは違うのだと悟った。
全てがつまらなく思えて、生きる意味さえも分からなかった。両親は共に海外で活躍する俳優たちで、望むものならば何だって手に入れられた。
地位と権力だって、ずば抜けて高かった。
容姿端麗。才色兼備。勉強も運動も何だって安々とこなしてしまう俺をみんなはそんな風に言っていた。
でも、俺は自分のほしいと思うものが見つからなかった。
それを見つけることが出来たのなら、俺の心は満たされると思った。