「裕翔くーん!すっごい気持ち良いねー!」
気分は最高潮。こんなに叫んだのは初めてかもしれない。バイクの音に負けないくらいに大きな声でそう叫んだ。
「そうだねー……!」
超ハイスピードで走っていくバイク。海に掛かる橋を走行しながらキラキラと光る工場の灯りを夢見心地で眺める。
「裕翔くん、今日って喧嘩するの……?」
「うん……、そうだよ」
裕翔くんの顔は見えないけれど声で申し訳無さそうな気持ちが伝わってくる。
「喧嘩してもいいよ。でも、怪我だけはしないで」
私がそう言うと、裕翔くんがだんまりと黙ってしまった。何かまずいこと言ったかな……?
そう思って不安になる。
「ふ、……はははは」
裕翔くんは何秒か黙り込んでいた後、本当に可笑しそうに声を上げて笑った。
「へ?」
「桜十葉、やっぱ変わってるね。喧嘩してもいいなんて言う女の子、桜十葉が初めてだよ」
それでそんなに笑ったのか……。裕翔くんの笑いのツボというのは計り知れないものだな。
「そう?だって裕翔くんは好きでやってるんだから別にいいじゃん。裕翔くんが傷つかないのなら私は何だって許せるよ」
高校一年生にして、十六歳にして偉いことを言ったなと自分自身にツッコむ。
「さすが、俺が好きになった女性だな」
こんなにも照れる言葉を軽々と言うものだから、こっちとしては困ってしまう。私は暗がりの中赤く染まる頬を冷やしながら、一人幸せに浸っていた。
ああ、違うな。一人、ではなくて二人、だった。どちらかが幸せな時、その他方も幸せなんだ。
そう気付かせてくれたのは、裕翔くん。
あなたです────。