明梨ちゃんの名字、倉本って言うんだ……。名字を知らなかったことに、少し罪悪感を覚える。


「うん。でも、あれ……?桜十葉、倉本さんと仲良かったんでしょ?他のクラスの子が言ってたよ」


え………?

仲が、良かった……?

明梨ちゃんも、言っていたんだ。私達は、親友だったのだと。でも、だけど、これは何度も頭の中で繰り返したことだけど、私には本当に、その記憶がないのだ。

だから今日の昼休みに、明梨ちゃんから話を聞くしかない。


「え、どうなんだろう……?あはは、記憶がないみたい」

「桜十葉。それ、まじ……?」


笑って誤魔化そうとした私に、朱鳥ちゃんが真剣な顔をして問う。


「う、うん。実は今日の昼休みにね、明梨ちゃんと話すの。入学式の初日に、明梨ちゃんから話しかけられて、……でも、私は明梨ちゃんのことを知らなくて、」

「うん」


凄くたどたどしくて、分かりにくい話なのに、朱鳥ちゃんは真剣に私の話を聞いてくれている。今でも、分からないことだらけで泣きそうなのに、朱鳥ちゃんが聞いてくれているというだけで、とても安心するんだ。


「私と明梨ちゃんは昔から、親友だったって言われたの。本当に、記憶がないの。だからそれが、何だか怖くて、……」

「うん」

「でもね、その理由を知ることよりも、その理由を知らないことの方がよっぽど怖い」