この青年は具現術師。
 紙にペンでデザインした家具や小物を、そばにある材料で一瞬にして組み立てるという術を持っていた。

 普通、彼ほどの若さ、腕前ならば王宮抱え。
 しかし彼は真面目ではあるが気ままで、自分はいつか別の世界で腕試しをと願っていた。


 ある日彼は、仲間たちにこう言った。

「俺、旅に出るよ。役職も就いていないし、今はだいぶ気が楽だからさ」


人見知りでもある彼だが、顔見知りの仲間たちにヘラヘラと愛嬌たっぷりの顔で笑って別れを告げる。

 そして愛用のフライパンとナイフと小さなまな板、スケッチブックとペンを荷物に詰め、ひとまず東に向かうことにした。


「デザイン、いかがですか〜?」

 丁寧に紙に描いた自分作の様々な品のデザインを市場に持ち込んで売り、小物の材料を持ってきた客には組み立ても行なった。
 人当たりも良く、サービス精神もある彼の描いたデザインはたちまち売れていった。

 そして得た金で食材を買い、自前のナイフで切った材料を、起こした火で調理する。
 自分の術でできないこともなかったが、自分の食事は自分の手で作る、凝り性な彼の趣味にもなっていた。