「えっ?」

 ただ単に食事についての希望を言っただけなのに、律顕(りつあき)から予想外の答えが返ってきて、美千花(みちか)は物凄く戸惑って。

「嫌、じゃ……ない、よ?」

 でも抱きしめられたり近付かれたりするのは堪らなく嫌だったから、語尾が曖昧に揺れてしまった。

「じゃあ久々に君のこと、ハグさせて? 美千花、この所ずっと、僕のこと避けてるよね?」

「あ、あのっ」

 図星だったから。
 美千花は何も言えずに(うつむ)いた。

「お願い、美千花。君から来て?」

 腕を広げる律顕に、美千花はどうしても歩み寄ることが出来なかった。

 あんなに居心地が良くて大好きだったはずの律顕の腕の中なのに。
 今はただただ嫌悪感が込み上げてくる。

 泣きそうな顔をして眉根を寄せた美千花に、律顕が悲しそうな顔をして。

「ごめん。しんどい時に無理強いしたね……」

 言って、くるりと背中を向けて。

「少し頭、冷やしてくる。美千花は気にせず寝てて?」
 遠ざかっていく律顕(りつあき)の寂しそうな背中に、美千花(みちか)は「待って」も「行かないで」も「ごめんなさい」も言えなかった。

***

 その日を境に、律顕の帰りが以前にも増してぐんと遅くなったことをふと思い出した美千花だ。

 今日、本当は蝶子(ちょうこ)にそのことも相談したかったのだけれど。

 何となく言い出せる雰囲気じゃなくて話せなかった。

 ばかりか、自分の律顕に対する冷たい態度への彼からの反応を聞かれた時、「分からない」と言う曖昧な言葉で誤魔化してしまった。

 恐らく蝶子に話した通り、律顕は怒ってはいないと思う。

 でも……。