やさしい嘘のその先に

 稀更(きさら)とどうこう言う事はなかったのかも知れないけれど、去り際の彼女の言葉を思うと、別に女性がいた可能性だって否定出来ないと思ってしまった美千花(みちか)だ。

律顕(りつあき)、今日は一日何をしていたの? 私が受け入れられない事って……何? お願い、答えて?」

 さっき同じ問いを投げかけた時、律顕は明らかに動揺して誤魔化した。
 それを思ったらキューッと胃が痛くなって、美千花は思わずお腹を押さえて眉根を寄せる。

「美千花っ」

 その様子に目ざとく気付いた律顕が、美千花に手を伸ばそうとして。すぐ思いとどまった様にその手を宙空で彷徨(さまよ)わせた。

 美千花は中途半端に伸ばされたままの律顕の手を震える手で握ると、そっと自分の方へ引き寄せる。

「律顕、私ね、もうつわり、殆ど落ち着いてる、の」

 痛みに耐えながら。
 ニオイに対して前程過剰反応はしなくなっているのだと言外に含ませたら、律顕が肩の力を抜いたのが分かった。

 美千花に手を握らせたまま、稀更(きさら)が腰掛けていたパイプ椅子に座った律顕が、妻の反応を(うかが)い見ながらもほんの少し椅子の位置をズラして美千花の方へ近付いて。
「お腹痛い? ナースコールする?」
 優しく言って、美千花の枕元のボタンに視線を向ける。