やさしい嘘のその先に

「私が離婚した原因は、二人で話し合うべき事を色々放置してしまった結果なの。永田君も貴女も……お互い言うべきことを言えてなくてまるで私達を見てるみたいで……つい口出ししたくなっちゃった。ね、お願いだから……どうか貴女は間違えないで? でないと私――貴女を私みたいに夫を寝取られた不幸な女にしたくなっちゃう」

「えっ」

 その言葉に思わず声を上げた美千花(みちか)に、稀更(きさら)がどこか悲しそうな笑顔を向けて。
 今度は律顕にも聞こえるくらい声のトーンを上げて言い放った。

「大丈夫。二人はまだ間に合うから。ちゃんと話し合って、悪い奴らに付け入る隙を与えないで? 自覚してないだろうけど二人とも異性からの人気、高いんだからね?」

 まるで自分自身に言い聞かせるみたいに発せられた言葉とその表情に、美千花は勘違いなんかじゃなく、稀更は夫の事が好きなのかも?と思ってしまった。

 ニコッと微笑んで「じゃあね」と手を振って去っていく稀更に、律顕(りつあき)が「隙なんか作らねぇし、与えさせるつもりもねぇよ」とつぶやいて。

 その、いつもとは少し雰囲気の違う口調と凛とした横顔に、美千花は改めて〝この(ひと)の事が好きだ〟と実感させられた。


***


「すまない、美千花。嫌な思いしなかった?」

 稀更の気持ちに勘付いて、我知らずキュッと身体をすくませていた美千花に、律顕がいつも通り表情を和らげて優しく問いかけてから、床頭台(しょうとうだい)の上に持っていた荷物を置いた。