先程も、稀更(きさら)から「ごめんなさい」とその事で謝られたのを思い出した美千花(みちか)だ。

 フルフルと首を横に振って、「私と律顕(りつあき)に会話が足りていなかったのが全ての元凶です」と、ずっと心の奥底に引っかかっていた事を告白した。

 実際、今稀更が告げた言葉はあながち間違ってはいない。
 寧ろ、美千花自身が律顕に対して抱いていた不満とピッタリ合致しているくらいだ。

 ただ、問題があるとすれば――。

「私からちゃんと言えていたら……つわりが収まるまでの間だから、申し訳ないけどワガママを許してね?って付け加えられていたと思います」

 そこがなかったから……きっとこんなにも(こじ)れてしまったんだと思う。


***


「――ごめん、美千花。それは僕のせいでもある」

 そんな言葉と共に突然カーテンが開けられて、黒のボストンバッグを手にした律顕が入ってきて。

「律、顕……」

 稀更にばかり気を取られていた美千花は、予期せぬ夫の登場に心底驚いてしまった。