「一人目の時にはつわりなんて全然なかったから大丈夫だとタカを(くく)ってたら何の事はない。二人目はガラッと体質が変わったみたいにしんどくて参っちゃった」

 そこで稀更(きさら)美千花(みちか)を慈愛に満ちた目で見詰めると、
「とにかくニオイに過敏になったのが辛かった」
 稀更の言葉に、美千花は「分かります」と実感を込めて(うなず)いた。

「永田君が私に美千花さんのつわりの相談をしてきたのもきっと、私が当時しょっちゅう休んでいたのを覚えていたからだと思う」

 身近な女性で、聞けそうな相手が稀更しかいなかったから、自分が相談先に選ばれただけだと言外に含めるようにして、「最終的には奥さん本人にどうして欲しいか聞きなさいよ?って言ったんだけどね」と吐息を落とした。

「そういえば西園先輩……律顕(りつあき)に何てアドバイスをなさったんですか?」

 さっき聞けなかった事を聞くチャンスだと思った美千花だ。

 じっと稀更を見つめて真剣な顔をしたら、
「あくまでも私の場合はだよ?って前置きして言ったの。『旦那のニオイが堪らなく嫌だったからそっとしておいて欲しかった。自分から極力離れていて欲しいって思ってた』って」
 言ってから、「ごめんね。もっと別の言い方をすれば良かったって反省してる」と稀更が頭を下げてきた。