「永田君と私と元旦那、大学で同じサークルでね、一つ先輩の旦那とは学生の頃からの付き合いだったんだけど」

 稀更(きさら)は元々結婚は強く望んでいなかったらしい。

 でも稀更が二十四の年。
 製品開発課で後に大ヒット商品となる化粧水、『涼風(りょうふう)潤水(うるみ)』を世に送り出したのとほぼ時を同じくして第一子の妊娠が発覚。それを機に一線を退いて結婚に至ったらしい。

「気付いてた? 貴女が入社してきた時、私、お腹には二人目の赤ちゃんがいたの」

 言われて、美千花は「え?」と思う。
 でも、美千花と蝶子が受付嬢として先輩らの手を(わずら)わせる事がなくなってきた頃、お腹の目立ち始めた稀更が産休に入ったのを思えば、期間的にもそうなのだと思えた。

 仕事を辞めて家に引きこもっていてでさえ、つわりで死にそうになった美千花だ。
 仕事をしながらつわりの時期を乗り越えた稀更は、本当に凄いなと思って。

「美千花さんたちが入社してきた頃には五ヶ月目に入ってつわりも落ち着いてたけど……ピークの頃はしょっちゅうお休みさせてもらったわ」

 まるで美千花の心を読んだみたいに稀更が言って。