美千花(みちか)律顕(りつあき)に歩み寄ろうとした時には、既に遅すぎたのだろうか。

「あの、律顕……」

「ごめん、美千花。今日はちょっと忙しいんだ。またにしてもらえるかな?」


 何とか律顕と話をする機会を作ろうと試みる美千花だったけれど、その度に(てい)のいい言い訳をされてはかわされてしまう。

 そんな事が、もう十回以上は続いただろうか。

 こうも続くと、さすがに美千花も律顕に避けられていると思わざるを得ない。

 そんな中、せめてもの救いは律顕がどんなに遅くなっても、必ず美千花の待つ家に帰って来てくれることだったのだけれど。

 美千花が彼の帰りを起きて待っていると、律顕は明白(あからさま)に困った顔をするのだ。


「ねぇ美千花。僕のことは気にせずゆっくり休んで? お願いだから」

 いつか自分が律顕に告げた、「私のことは気にせず食べて来て?」と言う言葉を彷彿とさせられる気遣いをされて。
 挙句「キミは今一人の身体じゃないんだから」と付け加えられては従うしかないではないか。