(愛想は尽かされたかも……)

 美千花はそれを認めるのが物凄く怖いのだ。
 現状、夫のことを生理的に受け付けられない癖して、律顕に対して身重な自分を置き去りにしないで?と至極身勝手な甘えを抱いてしまう。

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 蝶子(ちょうこ)と別れて真っ直ぐ家に帰ろうとした美千花(みちか)だったけれど。

 天気も良いし、幸いつわりの症状も重くない。少しだけ遠回りをしてみようかな?と言う気持ちになった。
 何より、こんな不安な思いを抱えたまま家に帰りたくなかったのだ。

(歩きながら気分転換しよ)

 フルーツや桃缶など、食べられそうなものを買って帰るのもいいかなと思って。

 会社の近くの商店街に小さな八百屋があって、そこのフルーツが新鮮で安価なことを思い出した美千花だ。

(スーパーに行くと人に酔っちゃうし……『やおまさ』でアレコレ買って帰ろ)

 『八百屋やおまさ』は「八百屋」と冠しているだけあって、小さな店舗ながら野菜や果物が種類豊富なだけでなく、パンや缶詰やちょっとした調味料など、結構八百万(いろいろ)置かれている。

 八百屋と聞いて思い浮かべる青果店というイメージより、どちらかと言うと商店に近い感じ。

 最近は多くの店でレジ袋が有料になったけれど、美千花の記憶が正しければ『やおまさ』はまだレジ袋も無料のままなはずだ。