スカーレットの悪女

「本気でそう思ってるん?」



大希さんは強い力で後ろから実莉の肩を掴み、振り向かせて顔を合わせる。


いくら実莉に甘い大希さんかてそりゃ怒るわ。



「俺がおるのにどうでもいいとか言わんで……」



と思ったら縮こまって実莉の手をちょこんと握った。



「誰やアンタ」



いつも堂々としてカッコイイ大希さんが口をすぼめて変顔で項垂れる姿なんて見るの初めてやから、思わずツッコミ入れてしまったやん。



近くにいた丞さんなんて、さっきまで般若と化した大希さんから逃げ回ってたくせに今じゃスマホを構え、面白がって大希さんの顔を撮影しとる。


いやほんまに丞さんって肝据わってはるわ。俺もさすがに大希さんをオモチャ扱いはできひんわ。



「実莉にとって俺はそんなどうでもいい存在なん?」



一方で俺たち側近にどんな態度を取られても大希さんはお構いない。眉毛を下げて実莉の顔を一心に見つめてる。


すると、その顔が面白かったのか実莉の口角が徐々に上がっていく。


なんや、心配するほど病んでるわけやないらしい。



「少なくとも、大希のしょぼくれた顔を見て感を覚えるくらいには好きだから大丈夫」

「俺のこと捨てんで」

「それはわざとらしいからなんにも感じない」

「なんやそれ。気難しいわ」



実莉の表情が明るくなったから大希さんは思い切りふざけた顔したけど、逆効果やったらしく実莉は仏頂面になった。


そんな実莉を見て、大希さんは閃いたように目を見開く。



「実莉、もしかしてマリッジブルーなん?」



マリッジブルー?大希さんからそんな言葉が出てくるなんて思わんくて今度は俺が変な顔になってもうた。



「……そう、かもしれない」



神経図太い実莉に限ってそれは無いやろと思ったら珍しく素直やん。


なんや、人並みにブルーになることもあんねや。