スカーレットの悪女

「大希さんは、俺と実莉さんが溺れてたらどっち助けます?」

「お前やな。雅がおらんかったらシノギが回らん」



例え話をしてみたら、大希さんはわざとらしくふふんと鼻を鳴らして答えた。


同時にチラチラと実莉の反応を伺うが、実莉は開け放していた窓から迷い込んできた蝶を目で追いかけて見向きもしない。


おいマジか、同じ空間におるのにこの話題に全然興味ないやん。



「……実莉?」

「ん?」

「今の嫉妬するとこ。ほんまは実莉を最優先に助けるから」



驚いたのは大希さんも同じで、呼び止めて訂正してはったけど、実莉はそれを聞いて眉をひそめた。



「え……何言ってんの。あんたは組織の要なんだから私より雅さん優先しないと。若頭にあるまじき発言だわ信じられない」

「えぇーっ!」



言いたいことは筋が通っとるけどなんやその言い方。いつもより棘を含んでるっていうか、よう大希さんも怒らんな。



「私はもういいの。壱華のことも解決したから。あとの人生はどうなってもいい」



代わりに俺が文句言ってやろうと思ったけど、続く言葉にふたりとも言葉を失った。


道理で最近元気ないなと思った。


違和感の正体はこれか。実莉はずっと、心ここに在らずなんやな。


家族と引き離されて目標を失って、いつ死んでもいいとさえ思っとるやろ。


迷い込んで何度も窓ガラスに羽をぶつける蝶を眺めている視線がそれを物語っとる。



「実莉……」



この発言にはさすがに大希さんもショック受けてはる。実莉は素知らぬ顔で窓を開け、外に蝶を逃がして外を眺める。


なんやその態度、籍まで入れておいて今さら自由になりたいとでも?