「この考えは甘いでしょうか」

「いや、俺でもそうする」



いたたまれない。どうすれば悲劇に打ちのめされて凍ってしまった凛太朗の心を溶かすことができるのだろう。



「これを潮崎の組長に届けろ。くれぐれも俺の親父には知られるな」

「分かりました」



荒瀬志勇が封筒を渡すと、凛太朗は顔色ひとつ変えず受け取って踵を返す。


この人は凛太朗のことをどう思っているのだろう。


いい下僕が手に入ったとしか思っていないんだろうか。



「生き急ぐなよ、クソガキ」



しかし、彼なりに心配はしているらしい。


その後ろで颯馬さんがうんうんと頷いて「ちゃんと眠れてる?」と続けて質問をした。



「大丈夫です。お心遣い感謝します」



このふたりが赤の他人を心配するなんて天地がひっくり返るほどあり得ないことだから驚いた。


しかし凛太朗はただ聞き流すように頭を下げて部屋を出ていった。


あのふたりでもだめか……こうなるともはや頼みの綱は実莉だけだ。



「クソガキその2、お前にもお使いだ。お前はある程度警戒されてるだろうから、ダミーを持って潮崎に帰れ」

「あっ、はい……」



視線を感じて顔を上げると、荒瀬志勇が手に持った封筒をひらひら顔の横で振ってそれを俺に寄越した。



受け取ると、隣に立っていた颯馬さんがため息をついた。