「もらえるもんはもらっとき。いらんかったら東京帰った後に売ればええやん。割とええ金額になるで」



大希は首の後ろで素早く留め具をはめると「ほら、似合っとるやん」と後ろから覗き込んで会心の笑み。


だめだ実莉、しっかりしろ!こんな王道シチュエーションでときめくな!


ぎゅっと目をつぶって視覚を遮断する。



「キス待ち?」

「違う!大希のバカ!もうアップルパイ焼けるからどいて邪魔!」



初めて翻弄される立場に回ったため、解決策が思いつかない。


小学生みたいな語彙で罵倒するも、大希は無邪気な笑みを浮かべて幸せを噛みしめているように見えた。



「そうやった、じゃあ俺も紅茶いれよ」

「来ないでってば!」



距離を取ってキッチンに向かうはずが、不敵な笑みで私のあとをついて回る大希。


威嚇する猫よろしく目を吊り上げて忠告するも、大希が歩みを止めるはずがなく。



「実莉ぃ、そうやって反発すればするほど俺の性癖に刺さるって知っとった?」



むしろ大希を悦ばせてしまっていたことを知り血の気が引いた。



「もう喋らないで、やけどしたら危ないから」

「あっは、切り替え早っ」



無表情になって静かに注意することを心がけたところで、ようやく大希はやっとちょっかいをかけるのをやめてくれた。