「ならいいけど。ねえ大希、あの人なんなの?天音って……極山に寝返ったはずじゃ」



そんなことより、あの男天音って言ったな。


天音組に関係のある名前なのは明らかだ。


だけどなぜあの人は大希を慕っているのだろう。


「雅は天音の組長の孫で、元々人質として本家預かりになってたんやけど、にも関わらず天音が裏切ったから、俺が身柄を引き取って傍に置いてる」

「組長の孫……なるほど」



人質なのに組に裏切られて命の危機に瀕したところか大希が助けて自分の側近にしたんだ。


それは恩義を感じて忠誠を誓うわけだ。


まあ、ちょっとばかしアグレッシブな忠義だけど。



「天音は極山の傘下に下ったけど、状況が悪くなったら西雲にのこのこ戻って来るはずや。そん時、雅を若頭にするって条件で内側から叩き直すつもり。
最近はフィリピン行って一仕事してもらっとったから、忙しくてここに来られんかったみたい」

「ふーん」



例の麻薬組織との癒着の件だろうか。雅は海外にいたらしい。



「心配せんでもああ見えて赤星より扱いやすいから、実莉にかかったらイチコロやって」



大希はそういうけど、猪突猛進系同担拒否オタクは絶対扱いにくいでしょ。


あの人に比べたら赤星が天使に見えるよ。



「いや、無理だと思う。ていうか私、本当に帰るんだからね!」

「んー、まだ絆されてくれんかぁ」



あんな側近がいるならますます西雲で生活しづらい。


宣言すると、大希は困ったように笑いながら自分の部屋の方向に足を向けた。