狼の異常な執着によって引き裂かれた姉妹。


そのわりには二人とも冷静で違和感を覚えた。


特に実莉は「あの二人は運命だから仕方ない」。ある時からそう言いだし、あっさり身を引いた。


荒瀬志勇を恨んでもいいはずなのに。


俺だったら唯一の家族を奪ったあの男を許せないだろう。


壱華も壱華で、荒瀬志勇の執着を大人しく受け入れている。


本当のことを知っていれば、そんな悠長にはできないはずなのに。


ここでひとつ仮定が生まれた。


相川壱華はなぜ自分が日本中の極道に命を狙われているのか知らないのではないか、と。



「……本当に知らないのか?」

「えっ……」



我慢できず口火を切った。


すると壱華は大きく目を見開いて、その漆黒の瞳を揺らす。


その反応、本当に知らないのか。



「いや、こちらの話だ」



俺は独り言のように呟いて、その場を離れた。