「壱華を手放さないで、絶対に」

「安心しろ、今のところその気はねえ」

「上に圧力かけられても?」

「……捨て駒には使いたくない」



視線を外し、壱華の顔を見つめながらぼそりと呟いた言葉が全てを物語っていた。


こいつが演技をしない男だって分かってる。


かなり絆されてるな、若頭ともあろう人間が。


この恋は波乱の幕開け。


そうだと分かっていても、やっぱり壱華の相手は志勇しかいないんだと認めるしかなかった。


頬に残る涙の痕に触れる手に、穏やかな寝顔を見守る眼差しに、パパの面影を感じたから。


ああこれは、本気で他人を慈しむ人の姿だ。


この日、私は志勇に壱華を託すことを密かに決めた。