兄と幸太は別の大学に進んだ為、
家に来る事が以前より少なくなった。
それでも時間が合う日は会っている様
だった。兄は文化祭以来、幸太の話を
私の前ではしない。私も聞かなかった。
兄に気を遣わせているのも
申し訳無かったし、何かある訳ではないが、幸太と私の間で板挟みに
させるような真似はさせたくなかった。
その日は午前授業で早く帰ってきたら、
幸太がちょうど家に来ていた様だった。

「七海とあんまりゆっくり会えなくて。
 授業で忙しいのに、家業の手伝いなんか
 もしてさぁ。頑張りすぎて身体壊さない
 か心配。まぁそんなところも好きなん
 だけど」

“家業の手伝いを頑張っている人が好き”
ってこと!?
ウチもやってる!
私も家の手伝いをしたらもう少し
私を見てくれる!?
冷静に考えれば、どんな七海さんでも好きだって言ってただけなのだが、
この時の私は自分に都合の良い部分だけ、言葉が抜き取られ、自分の好きなように
解釈したのだ。
その日の夜すぐ父に
“お仕事のお手伝いがしたい”
と申し出た。
まぁ、一瞬にして却下されたのだが…
じゃあ、父の仕事の手伝いをするには
どうしたら良いか。まず、会社そのものを理解する事にして、同時に
市場の変動も理解するために、
出来る範囲で少しずつ投機を始めた。
それに加え、万が一自分が
手伝える様になった場合、年齢で下に
見られることがあるだろうから、少しでも優秀だと思せる為には学歴も必要だと
判断し、引き続き学業も
疎かにしないよう努力した。
幸太の話を聞いてから始めた英会話は
中学以来続けている。
会社経営についてや普段の学校、
大学受験に向けての勉強、
定期的に投機。忙しさが返って良かった。
幸太と七海さんの事を
考えなくて済むから。

この忙しさの中でも幸太との
勉強会だけは何とか死守し、会う度
“これで明日からまた頑張れる”
と癒やしを貰い、それは幸太の
就活が始まるまで続けられた。
同時期には私の大学受験。
気は抜けない。私も最後の追い込みとして寝る間も惜しんで勉強に励んだ。
その結果、日本最高峰の大学の
合格を手にした。中学生の頃の私では
考えられない程の快挙だ!
自分で自分を褒めたい!
もちろんこの時も一番に幸太に報告した。っというか、この時は会いに行ったのだ。勉強会が無くなってただでさえ
会う事がない。幸太の姿が見えると
私は思わず抱きついた。
幸太は支えてくれたが
“どうした!?どうした!?”
と驚いてる。私が合格通知を見せると
“マジか!?ホント凄いよ!良く頑張ったな。おめでとう!”
と抱きしめて頭を撫でてくれた。
私にとっては片想い歴5年の中で
最高に幸せなひとときだった。
それだけで勉強づくめの私の高校生活に
悔いはないと言えるだろう。