子宮肛の全開が近いからそろそろ
分娩台に移動しましょうというとき、
幸太が到着した。
幸太は私の側に来て  
“遅くなって悪かった”と手を握り、
頭を撫で頬にキスしてくれた。
私は“ちゃんと待ってたよ。
間に合って良かった”と伝えたところで
咳払いされた…
そうだ、兄が居たんだ。
ついさっきまで兄のお陰でとか
思ってたのに幸太が来てくれた事で
すっかり抜けてた…
病院の中は妊婦一人につき、
付き添いは1人なので、
幸太は“悪かったな。助かった”と
一言二言交わして、ここで兄は
帰る事になった。

分娩室に入ったら産まれるまでは
家族は中には入れない。
急いで来てくれた幸太とはすぐに 
別々になった。そこから時間の間隔は
全く無い。一瞬痛みが引いたと思ったら
直ぐに陣痛。それの繰り返し。
ゴールが見えない痛みに何度も
投げ出したくなった。

そして…
無事に産まれてきてくれた時は安堵感と
達成感でいっぱいになった。
処置が終わると幸太が呼ばれた。
“お父さん、おめでとうございます。
元気な男の子ですよ”と
看護師さんから渡された幸太は目に
涙をいっぱい溜めて
“ありがとう、ありがとう”と
何度も言っていた。
この日の幸太の顔を涙を私は
一生忘れないだろう。