それからというもの、幸太が家に
来る度に私は纏わりつく様になる。
幸太は彼女がいるでは無く、
好きな子がいると言った。
この言葉は細やかな私の励みだった。

「華、幸太が大好き」

「ありがとう」

「ずーっと一緒にいたいな」

「普通に考えて無理でしょう?」

「華と付き合って」

「ダーメ」  

そんなやり取りも日常茶飯事。
自分がこんなに感情をストレートに
伝えるタイプだなんて思っても
いなかった。兄には呆れられ、
“そもそもあいつの好みじゃない”
“庇護欲そそる感じがいいんだって”
と再三言われた。
それでも諦められなかった私は、
高校は兄と幸太が通っている
ところに行きたいからと圭輔の妹という
立場を最大限に活かして勉強を
教えてもらう約束を取り付けた。
ただでさえ自分は接点が少ない
ポジションなのだ。どうすれば幸太に
近づけるか、どうすれば幸太に関われるか、それが私の根幹となった。
正直、幸太と会うまでは勉強が
好きな訳ではないし、将来遣りたい
ことも真面目に考えたこともなく、
適度に勉強をして、学力に合った学校
へ行き、どこかに就職するのだろうと
軽く考えていた。だが幸太に勉強を
教えてもらう口実を作ったなら、
それをやり遂げなければならない。
きっと幸太はこの勉強が自分に
会うためなのだろうと少なからず
分かっていたはずだ。それなのに
私が成績を伸ばせなければ、
ただの冷やかしになってしまい、
会う口実すら失ってしまう。
確実に結果をだし、真面目に
取り組んでいる姿勢を見せなければと
私は躍起になって取り組み、
“好き好き”言うのも心の中だけにした。
勉強は思ってた以上に大変だったが、
幸太の説明は丁寧でとても
分かりやすかったし、
答えが解れば褒めてくれ、
成績が上がれば頭を撫でてくれる。
時折、雑談を交えながらの週1回の
その時間は私にとっては
何よりも楽しい時間だった。


ある時、雑談の中で幸太が将来、
海外に携わる仕事がしたいと
言った事があった。

「もう将来の夢が決まってるなんて
 すごいね。私なんて、何も考えないよ」

「いいんだよ。華ちゃんは今は行きたい
 高校があって頑張ってる。それだって   
 立派な夢だよ。俺だって海外に携わる 
 仕事ってだけで具体的には決めてない
 しね」

「そっかぁ。何で海外に携わる仕事が
 いいの?」

「小学生の時に夏休みの宿題で国の
 重要文化財を調べようって宿題が出て  
 ね、それで何にしようって悩んで、
 どうせだったら近くて見に行ける所に
 しようって調べてたら“明日館”が出てき
 て。そこってアメリカの建築家が設計
 した所で、単純にその時代に外国の人が
 日本の建物に携わるってすごいなって」

「建築家になりたい訳じゃないの?」

「違うかもしれないけど、俺の中で建築家
 って黙々とデスクに向かって作業する
 イメージで。俺はそういうタイプじゃ
 ないなって。だったらとりあえず海外に
 携われるといいな位でね。小学生発想
 だよね」

この話を聞いて、我ながら単純だわぁ
と思いながら、英会話は学んでおこうと
決めたのは内緒だ。