それからは怒涛の日々だった。
すぐ父に会社の件で話を聞いて欲しいと
伝えた。その場には兄も一緒にいた。
結婚したい人がいるという事、
その人の幼馴染みの実家の経営が
行き詰まってるから支援したい事を
伝えた。経営状態を見て
話にならないと言われたが、
支援は今回限りにする、必ず別で利益を
出す、それで無理ならと投機で
貯めたお金が入っている自分の通帳を
差し出した。父は呆れたように
“お前は昔から言い出したら聞かない”
と渋々納得してくれた。
兄はきっと全てを悟っただろう。
“お前はバカだな”とだけ言って頭を
撫でてくれた。兄の見守る姿勢に
涙腺が緩んだが耐えた。
自分で決めた道だから。
“私は大丈夫”という意味を込めて
“甥っ子か姪っ子、抱かせてあげるから
楽しみに待ってて”
と軽口を叩いてやった。

藤岡製作所の方は、賃借する金額、
返済期日、返済方法、利息、
遅延損害金、 期限の利益喪失等は
銀行より融通を効かせ、行政書士
立ち合いの元、金銭消費貸借契約を
交わした。また融資は今回限りとし、
従業員の給与未払い分と銀行の返済は
優先して融資金より支払いをすること、
藤岡製作所の経営にはウチの会社は
一切立ち入らないという誓約書を
交わした。従業員に関しては
自主退職者を募るのであればこちらで
引き取る旨も伝えた。
ここまですれば、今後は地道に努力を 
重ね、誠実に対応していけば
大丈夫であろう。

幸太は無事に藤岡製作所の支援が
完了したことを伝えるとホッとしている
ようだった。結婚に関しても積極的とは
言わないが、しっかり考えてくれている様で、華ちゃんの家に挨拶に行って、
ウチにも来て欲しいと言われた。

ウチに挨拶に来た際、一通りの挨拶を
終えると幸太は父に対して
“この度は幼馴染みの件、ご尽力頂き
ありがとうございました”
と頭を下げた。そこまでして
守りたかったのだろう。
ただ、私には不思議でならなかった。
支援の為に何度か藤岡製作所に足を
運んだが一度も七海さんには
会わなかった。確かに七海さんには
会いたくなかったが、行くからには
多少なりとも会うだろと覚悟していた。
他社で仕事をしているのかもしれないが、自分で“実家の仕事が上手くいっていない”、“結婚させられるかも”
と幸太に話す位だから少なからず
実家の仕事に関わっていると
思っていたがそうではなかったのか?
幸太に頭を下げさせ、本人は一体
何をやっていたのだろうか?
私の負け惜しみ感情なのかもしれないが
七海さんに対しての不信感が残った。
今後、会うことはないだろうが。
幸太の言葉に父は
“構わない。華をよろしく頼む”
とだけ言った。

幸太の家に挨拶に行った時は驚いた。
幸太のお母さんが藤岡製作所に 
行っときにお話した従業員の1人
だったからだ。幸太のお母さんも
かなり驚いた表情をしていた。
それでもそこには触れず、普通に
接してくれ、受け入れてくれている様で 安心した。だから後日、私は一人で
幸太の実家にお邪魔した。
幸太の家族だからこそ、誠実で
ありたかった。

「突然すみません。先日はありがとうご
 ざいました。」

「いいえ、大丈夫よ。こちらこそ
 ありがとね」

「今日来たのは…いろいろ驚きました
 よね?」

「そうね。驚かないと言ったら嘘になる
 けど、藤岡製作所での華ちゃんの様子
 見てるから、あんなに真面目で一生懸命
 な子がウチの嫁に来てくれるのは
 とっても嬉しい。それにとっても
 美人さんだしね」

お義母さんの優しさが身に沁みる。
私もしっかり伝えたい。

「ご挨拶に伺った日、何も聞かずに
 受け入れてくださってありがとうござい
 ます。私が幸太さんの相手で驚かれた
 ことでしょう。幸太さんにはずっと好き
 な人が居て、その方とお付き合いして
 いたのも知っています。でも私は
 幸太さんのことが好きで好きでしょうが
 ないんです。現状に理解出来ない事も
 あるかと思いますが、幸太さんに
 同じ位、私のことを好きになって
 もらえるよう努力は惜しまないつもり
 です。暖かく見守って頂けたら
 嬉しいです。これからもどうかよろしく
 お願いします」

お義母さんは
“こちらこそどうぞ
よろしくお願いします”
と微笑んだ。その後も少しお話を
したが、流石に13歳で
初めて会ったときから好きで、
今までで幸太しか好きになったことが
ない事を知ると“えー!!”と
声を上げてしていたが
“幸太はこんなに想われて幸せね”
と言ってくださった。