もしかしたら今日が幸太と会う
最後の日になるかもしれない。
そうなったら幸太はきっと私の事なんて
思い出したくもない存在になるだろう。
そうなっても良いように、幸太の姿を
しっかり目に焼き付けよう。
幸太と会った1週間後、
幸太を呼び出した。

「お疲れ。悪いな、こっちのことで」
 
「お疲れ様。大丈夫。それより幸太、
 仕事は大丈夫なの?」

「まぁ、なんとかな」

それから私は藤岡製作所について調べて
貰ったと現状を話し、援助してくれる人を見つけるのは難しいだろうと伝えた。
幸太は唖然としておりショックを
隠せない様であった。私はこれから
更に幸太を追い詰める事になる。

「幸太、私ね、幸太の事が好きなの。
 本当は七海さんがその人と結婚すれば
 良いと思ってる」

「えっ?」

「そんなことになっても幸太が私に振り
 向いてくれるはずないのにね。
 私なんかじゃ七海さんの足元にも
 及ばない。でもそれを分かった上で
 言う。私と結婚して欲しい。ただ結婚
 するだけじゃない、子ども欲しいし、
 時間がある限り食事は一緒にとって、
 一緒に寝て欲しい。そしたら、父に
 藤岡製作所を助けて貰えるようお願い
 する。何が何でも、説得してみせる」

「それは俺が華ちゃんと結婚すれば
 助けて貰えて、結婚しなければ助けて
 貰えないっていうこと?」

硬い表情だが、思っていたより冷静に
幸太が聞いてくる。

「そう。脅しととってもらっても
 構わない。私はそれ位、幸太を誰にも
 渡したくない。選択権は幸太にある。
 他に助けてくれる人がいるならそっちを
 選んでくれていい。
 私を選んでくれるなら父に藤岡製作所は 
 絶対助けられるよう説得するし、
 幸太の事、幸せに出来るよう努力する。 
 後悔はさせない。だから私の手を取って
 欲しい」

言い切った。人生2度目の告白は
返事すら貰えなかった。
幸太にとって最低な話を
持ち掛けたんだ。軽蔑されても仕方ない
だろう。それでも私の中には変な
達成感が生まれた。幸太は時間が
欲しいと言い、その場は別れた。 

幸太からはそれから1ヶ月連絡が
無かった。私も連絡しなかったし、
幸太と会わない様に時間を調節した。
元々ゼミ終わりにバッタリ会う位
だったからそれは簡単だった。
こういう生活を送ってたらいつか
幸太の事をきっぱり忘れることが
出来るのだろうかと考えはじめた頃、
幸太から会って話がしたいと
連絡がきた。

「久しぶりだな。元気だったか?」

「元気だよ。幸太は?」

「うん。まあな」

あくまでいつも通りの会話。
でも幸太は元気なんて無いんだろうな。
私の提案を受け入れるつもりがあるから
連絡してきたに決まってる。
沈黙が続いていたが、それを破ったのは
幸太だった。

「華ちゃんは本当に俺と結婚したいの?」

「したい。結婚するなら幸太しかいない」

「華ちゃんの条件のんだら、七海の家は
 助けて貰えるのかな?」

「約束する。私が責任持って必ず父を
 説得する」

「そっかぁ」

諦めたような幸太の顔が胸に刺さる。

「華ちゃん、俺と結婚して貰えますか?」

指輪も何もない、私が無理やり言わせた
プロポーズだった。