とっくに冷めていると思っていたのに、心臓がドキドキと高鳴ってしまう。
 喧嘩の余韻で残った怒りと、混乱とときめきでおかしくなりそう。
「これからは喧嘩しないように気をつけますんで。すんませんした、おやすみなさい」
 早口にそう言うと、バタンとドアを閉めてしまった。外の明かりで照らされていた玄関が一気に暗くなる。
 喧嘩の続きをしようとか、そんな雰囲気じゃなくなってただ沈黙が続く。どうしようもなくて、ただ濡れたキャミソールの裾を握ることしかできない。
 ああ、そうだ、キャミソール。濡れたから洗濯しないと。頭もビール臭いからシャワーを浴び直さないと。
「私、お風呂入ってくる」
 必要以上に大きな声で宣言して、脱衣所に逃げこんだ。とにかく、この気まずい空間から離れたかった。それなのに、
「俺も入る」
 シャッと仕切りのカーテンを開けて乱入してきた。
「えっ」
「な、なんだよ?」
 正直、今日は一緒に入りたくない。せっかく気まずさから逃げようとしたのに。それに、なぜかまだ動悸が収まらない。でもいつも一緒に入っているのに、断るのはなんだか不自然な気もする。
 そんなことを考えているうちに、翔太はもう服を脱いでしまっていた。