好きだから、触れる。




とび跳ねた心臓のせいだ。
静電気みたいにバチッと、全身に衝撃が走る。
その衝撃はきっと、彼の手にも伝わってしまったに違いない。

こちらの様子を窺うように顔を上げた彼。
まるで計算しつくされたような上目遣いに、私の心臓が、きゅうきゅうと鳴く。

「えっと、……」

耳にかけた髪を元に戻したい。
熱を帯びた耳を今すぐ隠したいのに、身動きできない。

彼は、私の両手に手を重ねたまま。
空いている方の手を伸ばし、真っ赤だ、と言いながら私の『安定剤』に触れた。


「癖でも、…なんでもいいから、知りたい」


彼の、『一気に距離を縮めたくなる』という言葉の意味を、たった今、理解した。
その相手が私なのだということも。

考えてもみなかった。
彼のことは、密かに想いを寄せるだけの相手だと思っていたから。


「好きなんだ」


口下手な彼が。
遠巻きに見ていることしかできなかった彼が。
一歩どころか、一気に距離を縮めてきた。


今まで押さえつけてきた感情が、一気に溢れ出そうになる。