好きだから、触れる。




「それなのに、……ダメなんだ。知りたいと思ったら、つい……」
「つい?」
「一気に距離を縮めたくなる」
「そうなの?」

組んだ手を何気なく机にのせると、彼との距離が近くなった。


左頬に小さなほくろを見つけた。
目元に惹きつけられるのは、ふっくらとした涙袋のせいだ。
血色のいい唇を隠すように当てた手には、絆創膏が貼られている。


少しの緊張はあるけれど、嫌じゃない。

口下手な彼が、自分のことを話してくれたからだと思う。
遠巻きに見ていた彼を、ほんの少し知ることができた。
単純に、嬉しかった。

緊張よりも、喜びのほうが遥かに大きい。


「んー、っと…。だからさ、」

うなだれるように頭を下げた彼が、両手で後頭部をガシガシと掻く。
微かに舞ったシトラスの香りに、胸が、きゅっと締めつけられる。

意識して近づいたわけじゃないのに。
私と彼との距離は、シャンプーの匂いが届くほど近くなっていた。


……なんだか、恥ずかしい。


実感したとたん。意識したとたんに、急に恥ずかしさがこみ上げてきた。

浮かんだのは、『距離感』って文字。

再び彼と距離を取ろうと、椅子の背もたれに体を預けようとしたのだけれど。
それを阻むかのように、彼の右手が私の手に重ねられた。