「あのさ、」
机に両腕が乗せられると、彼の整った顔がすぐそばまでやってきた。
「なっ…、なに?」
慌てて椅子の背もたれに体を押し当て、距離をとる。
心臓がとび跳ねたせいで声が震えてしまった。
彼は気にする素振りもせず、そのままの体勢で私を見る。
普段は見上げることの多い彼の顔が真正面にある。
それに気づいたとたん、言葉では言い表せないような感情が沸き起こってきた。
単に、緊張してるだけじゃなくて。
心臓が落ち着きをなくしたのは、きっと、いろんな条件が重なってのことだと思う。
それでも彼から視線を逸らせずにいる私は、ただ瞬きを繰り返す。
先に視線を逸らしたのは、彼のほう。
「……あぁ、やばい」
タオルで顔を覆った彼の肩が大きく上下する。
繰り返す呼吸の音は、大半はタオルに吸収されていくけれど。
なんだか、ただ事ではなさそうだ。
心配になって、どうしたの、と声を掛けると、彼は、うーん、と唸るような返事をした。
しばらく時間をおいてから、顔からタオルが剥がされる。
現れたのは、弱さが見え隠れするものの、何かを決心したかのような、そんな表情だった。



