待ってる、なんて言わないでほしい。

『一緒に出しておこうか?』と言ったのは、気を利かせたからじゃない。
ほんとは、この状況から解放されたかったから。

だって。
彼とふたりきりでいることが、こんなにも緊張するものだとは思わなかったんだ。


どうしよう…。


手元の調査票に視線を落とす。
仮調査だから、適当な学校名を記入してしまえばすぐに済む。
ペンを握り直し、なんとか空欄を埋めようとした。


………ダメだ。


前の席に座る彼の、視線の先が気になってペンが進まない。
空欄ばかりの調査票なのか、それとも後ろの黒板か。できれば、教室の外を眺めてくれてるといい。

視界の片隅に入り込んだ彼の腕や足が、ほんの少し動くだけでも、ペンを持つ指が反応してしまう。
彼の存在を、おもいきり意識していると認めているようなものだ。


「……戻らなくて大丈夫?」
「うん」
「みんなに、怒られない…?」
「大丈夫」
「……ほんとに?」
「うん」


いっそのこと、「お願いだからひとりにしてください」と言ってしまおうか。

ペンを置いた私は、困ったなぁ、と呟きながら両サイドの髪を耳にかけた。