練習の途中で抜け出してきたのか、時折、首から掛けたタオルで汗を拭う彼。
バスケ部員で作ったお揃いのTシャツ姿でペンを走らせる。

ふたりきりの教室に、彼が生み出すペンの音が響く。


なんだか、ソワソワして落ち着かない…。


思わず耳たぶを触りそうになったとき、突然、彼が振り向いた。
慌てた私は、耳にかけていた髪をもとに戻し、誤魔化すように手ぐしで髪を整える。

隠した耳は、きっと真っ赤だ。


「ありがと」
「………、」

返却されたペンに視線を置いたまま、うん、と頷く。
書き終えたのなら練習に戻ってくれたらいいのに、彼は一向に動こうとしない。

「……あ。もしかして、進路希望の?」

気まずくなって、彼の手元の用紙に視線を移す。
彼は、そう、と短く言うと、コホンと小さく咳払いをした。

再び戻された沈黙を、どう扱えばいいのだろう。

動きを速めた心臓が、徐々にスピードを上げていく。

「……私も、出してなくて、」
「うん」
「まだ、迷ってて、」
「そっか」