微睡みに誘われそうな午後の陽射しの波は、ちらちらと私の手の甲を撫でていた。
もうすぐやってくる季節の兆しが、指先を覆うようにして伸ばしたセーターの隙間から忍び込む。
手指が冷たいから、まだ冬の残り香の方が優勢だ。

窓の外を眺めたかったけど、そうすると瀬川の姿が視界に入るから向かない。
これは意地を張っているわけじゃなくて、本当に癪なのだということを、私は一体誰に釈明しようとしているんだろうか。

そんなことを考えながら人差し指の腹で消しカスを集め、くるくると丸めていると、瀬川が私の方へ自分のノートを差し出した。

「何?」

尋ねると、瀬川は何も言わずにシャーペンの頭でノートの上の一点を指す。
私は瀬川の細長い指、綺麗に揃えられた爪、剥げたシャーペンのキャップの先を辿った。そのタイミングを計って、瀬川がぽつりと漏らす。

「タカセン」
「ん゛っ」

授業の序盤で取ることを諦めたノートの端には、不格好な似顔絵があった。
目の下のほくろと、小さい垂れ目。
冗談かと思うくらい誇張されているけど、先生の特徴をよく捉えている。
しかもご丁寧に、歪な吹き出しの中には“三波遊ぶな!”と怒りマークまで飛んでいた。

私は真面目ぶって結んだ唇から笑い声が漏れないように、寝るふりでセーターの腕に顔を埋める。
必死で震える呼吸を鎮めながら、ちらりと横を伺うと、瀬川も同じように突っ伏して、こちらを見て笑っていた。
瀬川のことは別に特別好きではないけど、こうして教室の隅で馬鹿をやっている時間が、私は何気に好きだったりする。