黒い龍は小さな華を溺愛する。


その時、奥の扉が開き、誰かがやってきた。


「ねぇ、腹減ったんだけど……」


無愛想にそう言った彼は、私より少し高いくらいの背丈だけど、顔はまだ幼さが残ってるような可愛い感じの男の子だった。

髪には寝癖がついていて、私に気付くとじっと見つめてきた。

「……誰?」


「あ、二人は初対面か!沙羅ちゃん、こいつは俺の息子の律(りつ)だ。中3で一応受験生だな」


篠原さんの息子くんだったんだ!

何回か来てるけど会ったのは初めて……篠原さんは離婚してると聞いていたけど子供もいたなんて。


「はじめまして……この前からバイトさせてもらってます、宇崎沙羅です」


そう言うと、「あ、ハイ……」と一言返ってきただけだった。


篠原さんはすごい明るい性格なのに、この子は暗すぎて正反対だ。

なんだかちょっと前の自分を見てるよう……って思うのは失礼だよね。


「よろしくおね……」


私が言い終わるまえに厨房を出て行ってしまった。