塚本屋のブースでは営業部のメンバー二人と開発部のメンバー三人がすでに準備に取り掛かっていた。

「お疲れ様です」

声をかけると全員手を止めてこちらを見る。

「お疲れ様です。副社長、早かったですね」

「片山さんも、お疲れ様です」

朗らかに対応してくれるメンバーに、私はぺこりとお辞儀をする。
以前会議をお手伝いした際に顔だけは合わせたことがあるが、話をするのは始めてだ。
ぼんやり立っているわけにはいかないので、緊張しながらも私は声をかけた。

「えっと、何かお手伝いすることはありますか?」

「ありがとうございます。じゃあ、手前にパンフレットを並べたいのでお願いできますか。奥のダンボールに入っているので」

「わかりました」

指示された通り奥に積まれたダンボールからパンフレットを探し出す。
この場で何も役割がない私だけど、できることはやらなくては。

ごそごそとダンボールをあさっていると、ふと落ちる影に顔を上げる。

「あら、片山さんじゃない。何しに来たの?」

照明の逆光からかあまりよく表情は見えないけれど、その自信に満ち溢れた声色はよく覚えている。

「……高田さんもいらしてたんですね」

「そうよ。私は開発部の期待のエースですもの、参加して当然よ。一成さんの期待に応えるわ」

「それは、すごいですね。頑張ってください」

「それにしても、ずいぶん図々しいのね。 一成さんの秘書だからってこんなところまで着いてきて。身の程をわきまえた方がいいわよ。塚本屋の名に傷がつくわ」

「えっと、……すみません」

高田さんは今日も自信満々だ。
勢いに圧されて思わず謝ってしまったけど、謝るべきではなかった気がする。

でも高田さんの言うことも納得できてしまうのだ。
私は何のためにここに来たのだろう。
時東さんが気を利かせてくれたから来れただけであって、秘書としての役割はここでは求められていないのだ。

何だかその事を実感させられて、ずうんと気分が沈んでいく。

私はパンフレットを抱えると形ばかりの会釈をし、逃げるように横をすり抜けた。