「――というわけで、副社長の出張に片山さんも同行してちょうだい」

笑顔を一ミリも出さず淡々と告げられた出張同行命令。
仕事感バリバリのオーラで言われたら、昨日「私に任せて」とほくそ笑んでいた時東さんを思い出し嫌な予感しかしないけれど、断る選択肢はない。

有無を言わせぬ威圧感。
他の秘書たちの反感すら蹴散らしてしまいそうなほど強い時東さんの命令。

「……承知致しました」

って言うしかないじゃない。
しかももう新幹線も手配済みと言われ、私に反論する余地は残ってなさそうだ。

一成さんと出張。
二人きり。
新幹線。
やばっ、まるで旅行。

いやいや、落ち着け私。
だいたいこれは仕事なのだから、雑念は捨てねば。

と平静を装って気を引き締めていたのだけど。

「失礼します」

スケジュール確認のために副社長室を訪れた私を一成さん自ら招き入れ、後ろ手に扉を閉める。

「千咲」

「はい」

ジリジリと詰め寄られ、ふいにあの日のことが思い出されて心臓がバックンバックンうるさく跳ねる。

今日はしないよね、キス。
なんて淫らな想像をしてしまって慌てて自分を戒めた。
何を考えているのだ、私は。