ドキドキと鼓動が早くなっているのがわかる。
触れられた場所が熱い。
意識してしまったら止まらない。

ああ、もう、絶対夏菜のせいだ。

私はブンブンと頭を横に振る。

「恋心を抱かないこと」と、最初に時東さんに忠告された言葉が脳裏をよぎった。

私は一度フラれた身なのだから、絶対に恋心なんてないと思っていた。
私が一成さんを慕うのは恋ではなくて憧れ。
芸能人でいうところのファン。推し。
……だと思っていたのだけど。

優しくされればされるほどもっとほしくなる。
その言葉や微笑みを私だけのものにしたくなる。

ちょっと待って。
私、こんなに欲深い人間だったっけ。

「片山さん、 ちょっと手伝ってもらえる?」

「は、はいぃっ」

急に声をかけられて肩がびくっと揺れた。
時東さんが不思議そうに私を見つめる。

「どうしたの?」

「な、なんでもないです」

愛想笑いをしながら時東さんの後に続くと、やってきたのは大会議室。

「ごめん、今日人手が足りなくて。会場の設営と呈茶の準備してほしいの」

「わかりました」

会議の内容を確認しながら時東さんと手分けして黙々と作業をこなしていく。
事務作業だけではなくこういった事前準備やサポートも立派な秘書の仕事だ。
雑用業務は好きじゃないという人もいるみたいだけれど、私はこうして先回りして準備をすることでこの会議室を使う方たちが快適に過ごしてくれたらいいなと思う。

他の会社を経験したことがないからわからないけれど、塚本屋の秘書はなにかとアクティブに動いている気がする。
ひとえに、時東さんの指導の賜物なのだけど。