重苦しい雰囲気が漂う私とは対照的に、高田さんはそこに立っているだけで自信に満ち溢れとても立派に見えた。

「高田、何をしている。 始めるぞ」

「はあい、今行きます」

先程まで向けられていた刺々しい口調はどこへやら、一成さんに呼ばれた高田さんは急に甘ったるい声で返事をしたかと思うと、ツンとした視線だけを残して私に背を向ける。

なんだか胃がキリキリとして嫌な感情に押しつぶされそう。
このままここにいない方がいいと判断した私は、始まりを見届けることなく会議室を出た。

けれどすぐに 「千咲」 と後ろから呼ばれ、振り返る。

「一緒に聞いていくか」

「……いえ、他にも仕事があるので」

本当は社内発表会に少し興味はあった。
最近塚本屋が全国展開したお茶専門ジェラートのお店は、この若手社内発表会での提案が発起だと聞いていたからだ。

けれどそれはやはり社員の特権であり、派遣社員の私は部外者感が強い。
それに一成さんと高田さんのやり取りも見たくない、なんて思ってしまった。
もしかしたらこれは嫉妬なのかもしれない。

きっと、昨日夏菜とあんな話をしたせいだ。

――つまりお兄にとって千咲はお気に入りで可愛いってこと

思い出すと体に熱を持ってしまうようで慌てて目線を下に落とす。
すると私の頭の上にぽんと優しく置かれる一成さんの大きな手。

「会議室の準備ありがとう」

声色だけでわかる、一成さんの優しさ。
いよいよ顔が上げられなくて、そのままぺこりとお辞儀をしその場を後にした。