翌日のカフェモーニング。
本当に、もう、行くのが躊躇われた。

だって、どんな顔をして一成さんに会えばいいのかわからない。
意識してしまったらその想いは留まることを知らなくなるのではないかと思ったからだ。

副社長室の前で何度か深呼吸をする。
ノックしようかやめようかと何度も拳を握っている私はさぞ滑稽だろう。
でもいいの、朝早い時間はフロアにはまだ社員はほとんど出社していないのだから。

ふう、と息を吐き出し、よし、と気合いを入れたときだった。
ふいに扉が開いて一成さんが顔を出し、あまりのタイミングに「うわあああっ」と驚きの声が漏れた。

「驚かせたか?」

「あ、ああ、いえ、すみませんっ」

ドッドッと早くなる心臓を落ち着かせるため深呼吸をしていると、一成さんはじっと私を見つめてから小さく息を漏らし、口を手で覆った。

「……もう、来てくれないのかと思った」

「えっ?」

「いや、俺の態度がよくないと、昨日茜に説教されてしまって。だから……心配した」

「心配ですか?」

「そうだ。俺が心配するのはおかしいか?」

そんな覗き込まれるように言われると落ち着き始めていた心臓がまたもや早くなってしまう。
それにもしかしたらこれは私を可愛がってくれてるからそう言ってくれているのかも、なんて都合よく考えてしまったものだからとたんに顔に熱が集まってくる。

「あの、ありがとうございます」

ドキドキと胸をときめかせていたのに、一成さんは眉間にしわを寄せる。

「もし仕事がつらいなら無理にとは言わない。辞めてもかまわない」

「あ、はい……」

なんだ、心配していたのは仕事のことだったのかと一気に気持ちが萎えて、バカみたいにときめいてしまった自分を必死に戒める。

夏菜の言葉を真に受けてしまったらダメなのだ。
夏菜は落ち込んでいた私を励ましてくれただけなのだから。

一成さんはクールで仕事に厳しくて、恋愛なんかに現を抜かす人ではない。
そんなことわかっているはずなのに。

「ひとつ誤解のないように言っておくが、辞めてほしいとは思っていない。心配するのは千咲のことだけだ。わかったな」

「……はい」

「じゃあ、行くか。モーニング」

そう甘い言葉をかけられてしまったら頷くしかない。
一成さんの言葉一つで一喜一憂するなんて、どれだけ私は子供なのだろう。

ただ今日は、いつもよりも嬉しさがほんの少し多い気がして心がぽわぽわした。