自動ドアを開き、革ジャンの雪を払う女性。
肩までの黒髪、整った眉、黒い革ジャンにはたくさんのバッヂ。
細身のジーンズはLee。スニーカーはアディダス。

明らかに場違いな格好で、あの人が店に来たのだ。
ボクは思わず声が出そうになったのを堪え、
「いらっしゃいませ」と言った。少し声が上ずった。
彼女はボクが視線に入っていないらしく、
いつもの早足で棚の奥のほうへ消えていった。
ボクはカウンターから離れ、掃除をするフリをしながら
彼女が見えるところまで向かった。
今、客は彼女を含め3人しかいない。
3人しか、と言っても、この店では多い方だ。

彼女は何やら探している風だった。
キョロキョロしながら棚を行ったり来たりしている。
これはチャンスだ。ボクはありったけの勇気を振り絞って声を掛けた。
「あ、あの、何かお探しですか?」見れば分かる。
なんて当たり前の聞き方なんだろう。でも他に言葉が見つからなかった。
彼女は少し間を置いて答えた。
「えっと・・・チャーリー・パーカーのCDを・・・」
初めて聞く彼女の声は、想像以上に透き通っていた。
もう少しハスキーな声を想像していただけに、ボクは勝手に驚いてしまっていた。