バイト先の店長は、貫禄を付けたいから3年前からヒゲを生やしたと言うが、
ボクにはそれがどうしても、志村けんの【ヒゲダンス】の付けヒゲに見える。

バイトしている間はとても気が楽だ。
店長との会話も最近ではコレといって無く、
客も一日10人から20人くらいしか来ない。
こんなんで経営できるのか、正直心配なくらいだが、
この店の本業は通販で、ここは倉庫みたいなものらしい。
最近ではネットでの販売も初めて、そっちで利益が出ているから、
店自体はどうでもいい、常連客が居るから閉める訳にもいかない、
そんなことを付けヒゲが誇らしげに語っていたことがある。

バイト代さえ出れば、経営状況なんてどうでもいいけど。

この店の常連客は8人くらい。
だいたいが喫茶店のオーナーとか、初老の夫人とかで、平均年齢は40代くらい。
ボクくらいの年の人間はJAZZなんて興味がないだろう。
バイトを初めて半年間、20代の人間は数えるくらいしか見ていない。

つまらない、どうでもいい。

バイトが終わるのが夕方6時。
真っ直ぐ帰宅して、つまらないTVを垂れ流し、
夕食を自分の部屋で済まし、風呂に入って寝る。その繰り返し。
両親とはずいぶん会話をしていない。

珍しく雪が降った12月8日。
ボクがバイトを初めて9ヶ月目のこの日に、
ボクは生まれて初めて鼓動の高鳴りを感じた。

あの人が、店に来たのだ。