夏の太陽が高層ビルの隙間から覗いた。
空は清々しいほどに晴れ渡り、動かなくなった肉の塊を照らしていた。
ボクはこれまでにない達成感を感じたが、すぐに正気に戻り、
震えている自分に気がついた。
見て見ぬふりをして通り過ぎるサラリーマン達。
群がる野次馬。遠くから聞こえるサイレン−

その後の警察の調べで、アイの部屋も、携帯も、
父の名義であることが判った。
父が会社の金、およそ8000万円を着服していたことも判った。
夫を愛し、裏切られ、息子に殺された悲劇の母親は、
世間の目とマスコミの取材により、精神を病み、
隔離病棟に運ばれたが、13日後、首を吊って自殺した。遺書は無かったらしい。

そして、アイは、ボクが父を殺したその日から姿を消した。
もともと、アイと言う名も偽名らしく、
昼間はどこで働いていたのかや、その素性は一切判らなかったと、
弁護士から聞かされた。

ボクが愛したアイは、今どこにいるんだろうか?
アイは、本当のことをボクに話してくれていたんだろうか?
アイ、ボクはキミが居なきゃダメだよ。
この壁に囲まれた小さな部屋から抜け出したら、
アイ、キミにまた会えるよね?
アイが居れば、この世界も悪くないって、
どうでもいいことなんてないって、そう思えるんだ。
また一緒に暮らそう。
この素晴らしき世界で。

(おわり)