間違いなく、自分の父親と、自分の愛した人だった。
二人はさすがに大久保まで一緒に歩くとまずいと思ったのか、
いつもそうしているのか、ホテルを出ると別れのキスを交わし、
父は新宿駅へ向かった。
アイがこちらのほうへ向かってくる。
ボクはフードを被り直し、アイとすれ違った。アイはボクに気づいていなかった。
すれ違いざま、ボクは「今までありがとう。」と呟いた。
アイが一瞬振り向いたようだったが、ボクはそのまま父を追った。

西武新宿駅を通り過ぎ、大ガード西交差点で信号が変わるのを待っている父のすぐ後ろに立った。

母を騙し、ボクを騙した男。ボクの幸せを奪った男。
いつからアイと知り合ったかなんて関係ない。
今、目の前に居るのは、ボクの生きる理由を奪った男だ。

「父さん」

ボクが一言声を掛けると、父が振り返ったが、
すぐに背中の重い痛みに気づき、顔を歪めた。

「オマエ・・・なんで・・・」
父は掠れた声でボクに問いかけた。
「アイは、ボクのものだ。」
ボクはそう言いながら、バタフライナイフを握った手をねじった。
父の顔が更に歪み、叫び声を上げたが、始発電車の音に掻き消された。

口をパクパクさせながら、ボクに何かを言いたかったようだが、
そんなことはおかまいなく、ボクはナイフを抜いた。
ナイフと、ボクの手が、汚らわしいこの男の血で汚れてしまった。