泣き疲れてへたり込んでいる母を宥め、
まだ浮気とか決まったわけじゃない、ボクが確かめるから、
もう少しだけ騙されたフリを続けてくれ、
ボクが証拠を掴んだら、その時考えよう。
と、その場しのぎの説得をして、母を寝かせ、
震える手を抑えながら、自分の部屋の引き出しにしまい込んでいたバタフライナイフを取り出し、
アイと暮らす部屋へ帰った。

ボクも、母も、今まで通り平然を装い、一週間が経過した。
金曜日、いつものようにアイが夜に家を飛び出した。
ボクは少し間を置いて、アイを尾行した。
電信柱2本ほど距離を置いて、アイを追い続ける。
職安通りのドンキホーテの信号を渡った先で、
アイがスーツの男に駆け寄った。暗がりで顔はよく判らない。
男がアイの手を取り、ホテル街へ足を運ぶ。
今にも叫んでアイを呼び止めたかったが、
拳を握りしめ、必死で堪えた。二人がホテルに入った。
悔しさと、悲しさ、虚しさ、負の感情が一気に込み上げる。
行き交うキャバクラ嬢やホスト、清掃車やパトカー。
どれもがボクを嘲笑う。

午前4時。烏が辺りのゴミを漁る。
鬱陶しくて蹴飛ばすふりをしたら、カァカァと大きな笑い声を上げ、
どこかへ飛んでいった。
蝉の鳴き声が聞こえる。
ボクは黒いパーカーのフードを脱ぎ、汗を拭った。

二人が腕を組んで出てきた。